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さう云ひたげに、練吉は近眼鏡の奥で切れの長い目をぱちぱちさせ、ちよつとあたりを見まはした。一種気楽げな表情がたちまちその顔に浮かんだ。
「ふむ、さうすると――」
「うむ、――え?」
彼の妻の茂子は昨日実家へ帰つたばかりで、この家にはいないのである。
「うん、寄りがあるからな、あんたはうちに帰つとんなさい」
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
築堤へ登る段の所で、長い竿を持ち扱ひにくがつて立停つた房一の背後から、盛子はふいに呼んだ。
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
その直造の耳には、次のやうな言葉が響いて来た。
男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。
「畜生、おぼえていろ。」
房一はその玄関土間に足を踏み入れて、
万事の設備不完全なるは、一々数え立てるまでもないが、肝腎の風呂場とても今日のようなタイル張りや人造石の建築は見られない。どこの風呂場も板張りである。普通の銭湯とちがって温泉であるから、板の間がとかくにぬらぬらする。近来は千人風呂とかプールとか唱えて、競って浴槽を大きく作る傾きがあるが、むかしの浴槽はみな狭い。畢竟ひっきょう、浴客の少かったためでもあろうが、どこの浴槽も比較的に狭いので、多人数がこみ合った場合には頗る窮屈であった。
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