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房一は持前の人慣れた愛想のいゝ微笑をうかべていた。それは水面にできた波紋がゆるく輪をひろげるやうに、彼の厚い醜い唇からはじまつてしだいに、顔全体をつゝみ、つひに容貌の醜さを消してしまふものであつた。
「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」
「どこの訴訟だ。なに鍵屋、うん、相沢か」
今の家へは、温泉がぬるいというのを承知の上で越してきた。
「さあ、一つ拝見しませう」
何のためか、どういふつもりか、練吉は矢庭に房一の肩をぐんと押した。そして、自分は逸早く溝をとび越して、土手を駆け上つた。下の方では、黒い一杯の人だかりの間からは何やら鋭い言葉を叫ぶ者がいた。練吉が駆け上つた後から、房一も本能的に溝をとび越えた。事態は緊迫していた。練吉が何をしでかすか知れない、といふ予感が閃いたので。
「本日は、私ごとき者までお招きに預りまして」
「いや、まだ」
と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、
「あんたは鮒をたべなさるかね」
「ふうん、それもよからう」
「何だらう?」
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